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瓢箪から駒の展開で壱岐泊を一日延ばした。朝にこう述べましたが、その続きです。
同好の旧友からの情報により、壱岐にも教祖おすすめの居酒屋が二軒あることを知りました。しかし居酒屋というのはその殆どが町の中心部にあるものです。行く先々で毎晩居酒屋ばかり訪ね歩くわけにもいきません。壱岐では無料で条件の良いキャンプ場があったので、ここは居酒屋を訪ねるよりも宿泊費の節減を優先すべき場面です。だから壱岐の居酒屋は潔く諦めようと思っていたのですが、一昨日キャンプ場も目前という所まで走って来て、驚くべき光景が目に飛び込んできました。

何ということか、教祖おすすめの居酒屋のうちの一軒が、キャンプ場から歩いて行ける所にあったのです。まさかまさかの展開に、喜びを感じる前に唖然としてしまいました。しかしむろんこれは僥倖、この機会を逃す手はありません。早速訪ねて、口頭で予約をしました。独酌での予約は何かと憚られるものですが、直に訪ねてならば何の気兼ねもありません。
さて、本来なら昨晩ここを訪ねてもよかったのです。そのつもりなら前述の通り昨日のうちに島内での一通りの活動を終わらせ、今日の船で対馬へ渡っていたかも知れません。ところが昨日は臨時休業だったのです。理由は、大将が福岡の病院に行くからとのことでした。事前にこれを知れて有り難かったと同時に、やはり壱岐の人々の生活面での結び付きは長崎よりも福岡なのだろうと感じた一幕でした。

宿泊費を大幅に節減出来るテント泊と居酒屋を訪ねることを両立出来たら理想的だと予て述べてきました。しかしそれが叶う場所などごく稀で、自身の経験でも過去に郡上八幡の河原のキャンプ場と稚内の防波堤ドーム、倶知安の三か所しかありません。そして今や前の二つはどちらもキャンプ禁止となってしまいました。こんな機会も潰えたかと思いきやまさか壱岐でそれが叶うとは。これよりキャンプ場から歩いて行き、感謝しつつ暖簾をくぐります。

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キャンプ場から歩いて四分の距離でした。こうなると何故こう辺鄙なところにあるのか、と思えます。辺鄙とはいっても周囲は住宅が建ち並び、港も近いです。しかし町の賑わいとは程遠く、このように歩いて行けるごく近所の人か、車で運んでもらわない限りは足を運べません。恐らく昔からここに土地を持っていたから、ということなのでしょう。創業は昭和49年で45年目ということでした。

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この店を一言で評するなら、とにかく豪快だということです。まずはこの店構えです。そして中はこの外見を超えていました。中に入るとまず目に飛び込んで来るのが船です。船大工に造らせたという本物の船が、空中に据え付けられています。その船には神棚、熊手、七福神などなど。簡潔で殺風景なくらいを好む自分には合いませんが、ここまでやればむしろ天晴れです。海に感謝して大漁に感謝する、これが島の人々の生き方の表れなのでしょう。生け簀に無数の魚が泳ぎますが、この生け簀もよくある水槽のようなものとは規模が違います。店の中に池がある、と形容すればいいでしょうか。その巨大な生け簀には鮫、エイ、うつぼ、伊勢海老までもがいます。これを眺めているだけで飲めそうです。
料理も豪快です。刺身も揚げ物も、一つ一つが厚く大きく、盛りも多い。たとえば刺身などは大きく厚く切れば美味いかというとそんなことはないわけですが、やはり島のご馳走、漁師のご馳走がこうなのでしょう。ここではこれが正義と思えばむしろ美味に贅沢に感じられます。
美味さについては言わずもがな。まずお通しの海鼠酢が絶品です。こうも鮮度の良い海鼠は初めて食べたかも知れません。刺身、すり身揚げ、天麩羅、最後に味噌汁をいただいたのですが、どれも思わず唸ってしまう程の味わいでした。すり身は何と鯵のもので、香りに陶然となります。

店内はカウンターが六席、分厚い白木の素晴らしいものです。それから仕切りを設けられた半個室のような感じの四人掛けが二つ、小上がりが一つ、あとは奥の大座敷です。印象的な出来事が一つありまして、客は座敷の大人数の宴会の他は私だけでした。四人掛けも小上がりも、沢山の席が空いているというのに、飛び込みの二人組が即答で断られていたのです。ここは空席状況ではなく仕事量と手数の按配で客数を調整しているのでしょう。恐らく全ての席が埋まるのは節目の日や祭りの日、予め手伝いをかなり増備するのでしょう。一人、二人であろうと予約が必須ということです。
いつもとは違ってこの一軒限り、そして恐らく人生で最初で最後の壱岐の居酒屋です。心ゆくまで飲み食いしました。上記の料理に加えて、酒もかなり飲みました。会計は恐らく七千円を超え、一万円に届いてもおかしくない…こう予想していたのですが、六千円を僅かに超えただけでした。内容と量を考えれば良心的だと言い切れます。この店にとって立地など些細なことなのでしょう。超然としたその佇まいに、壱岐の心意気に触れられた気がしました。島での最後の夜に貴重な経験が出来たことに感謝します。

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