私は長いこと、スーパーカブの運転の極意はシフトチェンジにこそあると思っていました。実際のところ私の先代の愛車であるカブ90の時代はそうだったと思います。カブ90には二段クラッチ機構が付いていませんでした。だからギヤを変える時に変速ショックというものが生じます。特に低速ギヤで高回転まで引っ張って加速した際の変速ショックは大きいものでした。シフトダウンの際はさらに強烈で、無造作にシフトダウンをするとチェーンの偏伸びや駆動系を痛める原因になったのです。
ところがカブの遠心クラッチというのは本当に優れたもので、シフトペダルを踏み込んだままでいるとニュートラルの状態を保てるのです。これによって、高回転まで引っ張ってシフトアップする時は一呼吸置いてニュートラルでいる時間をやや長くとり、シフトダウンの際にはニュートラル状態で空ぶかしをして回転数を合わせ、しかる後にペダルから足を離す。これを極めるとそれこそ氷の上を滑るが如く滑らかにカブを走らせることが出来たのです。
これこそは職人芸であり、カブ乗りの腕の見せ所でもありました。ところがカブ110になって二段クラッチが搭載され、この余地は大幅に減じられました。加速の際には、早めに次々とシフトアップする時でも低速ギヤで高回転まで引っ張る時でも、同様にペダルからすぐに足を離すのが最良であり、シフトダウン時の空ぶかしも中途半端にこの二段クラッチの機構が介入するものだから感触が曖昧になり、どちらにせよ職人芸の見せ所はなくなってしまったのです。

カブ90からカブ110になって変わったのはクラッチだけではありません。もう一つ大きな変化がありました。それがインジェクション化です。
二輪車に乗る殆どの人はインジェクション車に特有のドンつき、ドン戻りを一度は経験したことがあると思います。このドンつき感はトルクの小さいカブでもはっきりと感じることが出来ます。これについて私も、カブ110を買った時から認識はしていました。ただ交通密集地に住んでいて、車の脇をすり抜けては青信号になると同時に強めの加速で飛び出し、そうかと思ったらすぐにブレーキをかけて赤信号で止まることの繰り返し、という運転だったので日頃は意識から消えていました。
日本一周に出発したらしたで、過積載で重い状態で走ることが殆どであったためドンつき感は希薄になり、やはり殆ど忘れていていたような状態でした。ところが、最近は空荷の状態で何時間も走る日が続いて、改めてこのドンつき感が気になるようになってきたのです。
加速の時もさることながら、いかにもインジェクション車らしい挙動を見せるのはアクセルオフの時です。たとえば4速50km/hで流していたとしましょう。ここからアクセルを抜く際、右手を放すようにして一気にアクセルオフにすると僅かな衝撃を感じます。ところが数段階に分けるような気持ちでじわりと丁寧にスロットルを戻すと、衝撃は全く起こらないのです。これは実に繊細な操作を要求され、それだけに上手くいくと気持ちがいいものです。
4速でのアクセルオフの時よりさらに繊細なのが発進加速の時です。右手の掌に神経を集中させ、ほんの少しずつアクセルを開けているつもりでも滑るように走り出すのはかなり難しいです。僅かにブレーキを残しつつ発進する、足で車体を少し後ろに動かしながら発進するなども試してみましたが、そんな小技を使うよりもより緻密なアクセルワークを身に付けるべきでしょう。
ここで思い出したのは、漫画「イニシャルD」で、走りの質を高めるためにアクセルワークの特訓をするという似たような場面があるのです。あちらは車の話ですが同じこと、アクセルを十段階くらいに分けて踏んだり戻したりしろ、というのです。よく分かります。
開けるにせよ戻すにせよ、アクセルワークをここまで気にするようになったのは本当に最近のことです。カブ90時代のシフトチェンジとはまた違った、カブ110ならではの別の修行の場、職人芸の磨きどころを見付けたのが嬉しいのです。二段クラッチなし、キャブレターという仕様だったカブ90の時代はシフトチェンジが運転の極意だったことは間違いないです。これが二段クラッチにインジェクションのカブ110になり、アクセルワークに極意が移ったと言っても過言ではありません。
4万km近くも乗って今さらながらにこの事に気付くとは、スーパーカブの世界の奥深さに改めて惹き込まれていく思いです。そして沖縄編では空荷に近い状態で走ることがまだ続きます。その間にアクセルワークを磨き、極め、神の左足に続く神の右手を手に入れたいと思います。

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ところがカブの遠心クラッチというのは本当に優れたもので、シフトペダルを踏み込んだままでいるとニュートラルの状態を保てるのです。これによって、高回転まで引っ張ってシフトアップする時は一呼吸置いてニュートラルでいる時間をやや長くとり、シフトダウンの際にはニュートラル状態で空ぶかしをして回転数を合わせ、しかる後にペダルから足を離す。これを極めるとそれこそ氷の上を滑るが如く滑らかにカブを走らせることが出来たのです。
これこそは職人芸であり、カブ乗りの腕の見せ所でもありました。ところがカブ110になって二段クラッチが搭載され、この余地は大幅に減じられました。加速の際には、早めに次々とシフトアップする時でも低速ギヤで高回転まで引っ張る時でも、同様にペダルからすぐに足を離すのが最良であり、シフトダウン時の空ぶかしも中途半端にこの二段クラッチの機構が介入するものだから感触が曖昧になり、どちらにせよ職人芸の見せ所はなくなってしまったのです。

カブ90からカブ110になって変わったのはクラッチだけではありません。もう一つ大きな変化がありました。それがインジェクション化です。
二輪車に乗る殆どの人はインジェクション車に特有のドンつき、ドン戻りを一度は経験したことがあると思います。このドンつき感はトルクの小さいカブでもはっきりと感じることが出来ます。これについて私も、カブ110を買った時から認識はしていました。ただ交通密集地に住んでいて、車の脇をすり抜けては青信号になると同時に強めの加速で飛び出し、そうかと思ったらすぐにブレーキをかけて赤信号で止まることの繰り返し、という運転だったので日頃は意識から消えていました。
日本一周に出発したらしたで、過積載で重い状態で走ることが殆どであったためドンつき感は希薄になり、やはり殆ど忘れていていたような状態でした。ところが、最近は空荷の状態で何時間も走る日が続いて、改めてこのドンつき感が気になるようになってきたのです。
加速の時もさることながら、いかにもインジェクション車らしい挙動を見せるのはアクセルオフの時です。たとえば4速50km/hで流していたとしましょう。ここからアクセルを抜く際、右手を放すようにして一気にアクセルオフにすると僅かな衝撃を感じます。ところが数段階に分けるような気持ちでじわりと丁寧にスロットルを戻すと、衝撃は全く起こらないのです。これは実に繊細な操作を要求され、それだけに上手くいくと気持ちがいいものです。
4速でのアクセルオフの時よりさらに繊細なのが発進加速の時です。右手の掌に神経を集中させ、ほんの少しずつアクセルを開けているつもりでも滑るように走り出すのはかなり難しいです。僅かにブレーキを残しつつ発進する、足で車体を少し後ろに動かしながら発進するなども試してみましたが、そんな小技を使うよりもより緻密なアクセルワークを身に付けるべきでしょう。
ここで思い出したのは、漫画「イニシャルD」で、走りの質を高めるためにアクセルワークの特訓をするという似たような場面があるのです。あちらは車の話ですが同じこと、アクセルを十段階くらいに分けて踏んだり戻したりしろ、というのです。よく分かります。
開けるにせよ戻すにせよ、アクセルワークをここまで気にするようになったのは本当に最近のことです。カブ90時代のシフトチェンジとはまた違った、カブ110ならではの別の修行の場、職人芸の磨きどころを見付けたのが嬉しいのです。二段クラッチなし、キャブレターという仕様だったカブ90の時代はシフトチェンジが運転の極意だったことは間違いないです。これが二段クラッチにインジェクションのカブ110になり、アクセルワークに極意が移ったと言っても過言ではありません。
4万km近くも乗って今さらながらにこの事に気付くとは、スーパーカブの世界の奥深さに改めて惹き込まれていく思いです。そして沖縄編では空荷に近い状態で走ることがまだ続きます。その間にアクセルワークを磨き、極め、神の左足に続く神の右手を手に入れたいと思います。

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